「わたし、チャーシューに味が染みこむときの、音が聞こえるの」
赤く細かいギンガムチェックが、透き通ったピンク色にみえるような、そんなテキスタイルの裾をいじりながら彼女がいった
「へえ　そうなんだ」
もしチャーシューに味が染みこむときの音が本当にきこえたとして、なんだかべつに、それに興味はないきがして気もなさげにそうこたえてみた
「味が染みこむときの、イメージする音ってあるでしょう」
僕の気のない返事が彼女には染み入らず、つづける
「すー　とか、じわー　とか」
たしかに、チャーシューに味か染みこむときの音はだいたいそんなもんだろう。
「でも本当は全然ちがくて、こう、もっとこまかいリズミカルな音で、トトトトトト、トトトトトト、って」
彼女が赤く細かいギンガムチェックのテキスタイルに指を触れながら、オーストラリアあたりにいるカラフルで小さく、花の蜜だけすっているような変な鳥の鳴き声のイメージのような、トトトトトト、という声を口をとがらせて発する。彼女の発するトトトトト、という音が、毛細血管現象のように、赤く細かいギンガムチェックの格子のあいだに充満していくのを感じて、僕は驚いた。
チャーシューに味が染みこむ音と、ギンガムチェックに音が染み入る様子は、一緒なんだな。と考えているうちに、彼女は、もう、一枚目のチャーシューを食べ終えているところだった。