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2023 poche-nigi

2023-070

新幹線の車窓から、遠くの方の連峰を眺めるのが好きだ。さっきやっていたニュースでは、寒気の底がついて、そろそろ春の様相がじょじょにやってくる、と言っていた。新幹線の車窓からみえる、遠くの方の連峰には、まだまだ雪がどっしりとかかっているが、周囲はからっとした明るい大気に包まれているようにみえて、ああ。ほんとにもうすこしで春が来そうな感じがするな、という気持ちになる。
びゅんびゅんとうしろにすっ飛んでいく手前の景色とは対照的に、連峰はゆっくりとゆっくりと、うしろに流れていく。手前のそうした景色が、びゅんびゅんと駆け回るうさぎのようだとしたら、遠くにみえるあの、まだどっしりとした雪がかかっていながらも、だんだんと黒い身体がみえてきている連峰は、のそっと冬眠から覚醒しつつあるクロクマのようだな、と思う。
いまは遠くにみえて、もう、次の瞬間には忘れてしまうだろうあのクロクマにも、これからどこかでまた合うかもしれない。もしあったとしても、今日みたクロクマだったことは、お互いに覚えていないだろう。それでもクロクマは、ふさふさとしたまっくろい、深い毛並みを揺らしながら、ゆっくりゆっくりと身体をニギらせていく。