正月になるとウサギがやってくる。
ふさふさと白いひげをたくわえた白いウサギが、遠い月の野原から、低い牧草地帯の穴ぐらから。多分、青白い草わらのにおいに包まれてやってくる。
月光と門松のさなかで、白いウサギは張り替えたばかりの畳の新鮮な匂いに頬ずりして、遠慮がちに生まれたてのぷりぷりの赤ちゃんを見た。
遠く近く、そのよだれの感触を想像していたものが、ついに眼前にあらわれたのである。
正月になるとやってくるウサギは、ごくり、とつばを飲み込んだ。
その瞬間を赤ん坊は、みのがしてはいなかった。